トランプ政権は野心的な目標を掲げている。米国のAI半導体を中東、アジア、欧州へ大規模に販売し、NVIDIAやAMDのプロセッサを世界中に流通させることだ。収益を上げると同時に、世界のAIインフラにおける米国の主導権を固める狙いがある。
しかし、一つ問題がある。輸出ライセンスの承認を担当する機関の人員が急速に減少しているのだ。
BIS:米国半導体輸出の最終関門
商務省傘下の産業安全保障局(Bureau of Industry and Security、BIS)は、米国からのすべての機密技術輸出を承認する機関である。NVIDIA H200をサウジアラビアに販売したい場合、BISの承認が必要だ。AMD MI325Xをインドのデータセンターに輸出する場合も、やはりBISが関与する。
ブルームバーグが4月10日に報じたところによると、この機関の現状は極めて厳しい。
- 2024年比で総職員数が101人減少し、減少率は19%
- 輸出管理局(Export Administration division)では、バイデン政権時のFY2025予算に計上されていたポストの約5分の1が失われた
これはBISの業務量が急増している中で起きている。
業務量は倍増、人員は縮小
過去1年間で、BISが処理すべき案件は増加の一途をたどっている。
- NVIDIAによる中東向け先端半導体輸出申請の審査
- 2026年1月に施行された新規則の執行。これはH200とAMD MI325Xの中国向け輸出を25%の関税で認める一方、各バッチの出荷量を同期間の米国顧客向け出荷量の50%以下に制限するもの
- 自動車、鉄鋼など複数業界の関税調査の主導
同じ人員で3倍の業務をこなすことが求められている。結果として、ライセンス申請は滞留し、承認サイクルは長期化し、企業は待ちくたびれている。
最も打撃を受けるのは誰か
大企業はまだ耐えられる。NVIDIA、AMD、インテルといった規模の企業は、BISのプロセスに精通した専門のコンプライアンスチームを有し、政府との調整も可能で、数ヶ月待つだけの資金力もある。
中小の輸出業者は状況が大きく異なる。海外顧客の注文を手配する仲介業者は、ライセンスが数ヶ月滞留すれば、契約が白紙になる可能性がある。こうした企業には待つ余裕も、ロビー活動のリソースもない。
業界団体は既に警鐘を鳴らし始めている。米国政府自身の承認機関が輸出のペースに追いつかなければ、市場シェアは他国に奪われていく。買い手は商品を入手できなければ、中国の半導体であれ、承認の不確実性を回避するための事前在庫であれ、代替手段を探すだろう。
政策の意図と実行の現実は別物
問題の根源はやや逆説的だ。政策レベルでは、トランプ政権はAI半導体輸出の拡大を明確に支持している。1月の規則は、これまでの中国向け輸出に対する「原則拒否」を「ケースバイケースの審査」に変更し、H200とMI325Xに門戸を開いた。
しかし、「政策の自由化」と「行政上の承認」は別問題だ。申請書を一枚一枚精査し、最終需要家を確認し、リスクを評価する作業は、人間が行う必要がある。AIでは代替できない(少なくとも現時点では)。
BIS内部では、政策の方向性が不明確で、経営陣の統制が強化された結果、日常的なライセンス承認権限までもが上位に移譲され、現場職員の自律的な判断の余地が狭まり、効率はさらに悪化している。
二つの潜在的リスク
第一に、米国企業の競争力が低下している。半導体輸出のライセンスが下りなければ、販売契約は結べない。この関門を通過する必要のない競合他社が有利になる。
第二に、承認のボトルネックが地政学的な交渉材料になり得る。安定した半導体供給を必要とする同盟国は、米国の承認システムが信頼できないと判断すれば、代替手段を模索したり、政治的な圧力をかけたりするインセンティブを持つ。これは、米国のAIインフラ輸出の戦略的意図を弱体化させることになる。
BISの人材危機は、根本的にはワシントンの政府効率性の問題である。しかし、その影響は企業のバランスシートと世界のAI半導体貿易の構図に、着実に波及しつつある。
出典:Trump's AI Chip Export Push Stymied by Bureaucratic Bottleneck(Bloomberg、2026年4月10日);CocoLoop、Trump's AI chip export push stymied by bureaucratic bottleneck(ChinaTechNews)