中国国務院弁公庁は10月23日、「人工知能技術の発展に適応し、雇用に優しい発展方式の構築を後押しすることに関する意見」を公表した。文書は目標をかなり率直に書いている。AIが雇用機会を生み、従来型の職種の高度化を促すプラスの効果を強めること、AI活用による雇用代替の影響を有効に和らげること、そして技術進歩・産業高度化と、雇用・民生の改善を連動させることだ。
公開報道から整理した内容では、施策は5分野に分かれる。前の3分野は雇用の創出、後の2分野は失われる雇用を減らすことと、実態の把握に関するものだ。
新しい仕事はどこから生まれるか
第1の分野は起業だ。文書は、国家創業投資誘導基金と国家AI産業投資基金の役割を発揮させ、市場原理に沿って企業のイノベーションを支援することを掲げる。あわせて、高水準のAIオープンソースコミュニティーを整備し、複数のオープンソースプロジェクトを展開して起業と雇用を後押しするとしている。さらに「科学技術成果+起業」「産業発展+起業」「職業技能+起業」「民生ニーズ+起業」という4つのモデルを挙げ、応用シーンや成果の事業化に即したインキュベーション(起業支援)サービスの実施を求めている。
第2の分野は新職業だ。意見は、シーンの育成と大規模な活用を軸に、新職業の開発と職業標準の公表を加速するよう求める。デジタル管理師、AI工学技術者、AIトレーナー(訓練師)などの職種の需要を拡大し、地方には対応する職称(専門職の等級)審査の専攻を増設して、職業技能等級の認定を速やかに行うよう促している。これらの職業名は数年前から国家職業分類に順次加わっており、今回の力点は「需要の拡大」と職称審査にある。すでにデータのラベリングやモデル調整に携わっている人にとっては、名称そのものよりも職称の道筋のほうが実利が大きい。
第3の分野は伝統産業だ。工業の知能化と農業のデジタル・知能化への転換では人と機械の協働を進める。生産者向けサービス業は専門化と価値連鎖の高付加価値化へ向かわせ、生活者向けサービス業では体験型消費や個性的な消費を広げて、サービス業の雇用の受け皿を拡大するとしている。
雇用代替の影響をどう和らげるか
第4の分野が、この文書でもっとも重みのある部分だ。意見は、AIを労働力が不足している職場や危険度の高い環境の職場で優先的に展開するよう求める一方、労働集約型産業での活用の範囲・度合い・ペースについては「慎重かつ着実に」見極め、従業員への衝撃を極力抑えるとしている。
具体的な手段が失業緩衝期間だ。企業にこの制度の構築を模索するよう奨励し、影響を受ける労働者に事前に通知して、職種転換・配置転換の支援を提供するとしている。表現は「奨励」「模索」で、あくまで誘導的な条項にとどまる。緩衝期間をどの程度の長さにするのか、その間の賃金をどう計算するのか、転職のための研修費用を誰が負担するのかは、公開内容には書かれていない。人的資源・社会保障部門や地方による細則を待つ必要がある。
第5の分野は研究だ。文書は、AIの浸透状況、雇用の創出と代替、スキル需要の変化を継続的に追跡する専門調査を行うよう求める。大学や研究機関に複数のAI雇用研究センターを設けること、国家社会科学基金などのプロジェクトを通じて、AIが雇用と所得分配に与える影響を研究することも盛り込んでいる。
誰にもっとも影響するか
第4分野と第3分野をあわせて読むと、影響の及ぶ範囲はおおよそ見えてくる。
第1層は、労働集約型産業の雇用主だ。「範囲・度合い・ペースを慎重かつ着実に見極める」という一文に拘束力はないが、方向性は示している。AIで現場の仕事を大規模かつ一度に置き換えることは、今後、政策上の受け止め方としてデリケートになりやすい。コールセンターの外部委託、テレアポ営業、基本的な品質検査のような職種は、人数が多く代替のハードルも低いため、この文言にもっとも当てはまりやすい。これは文言からの当方の推測であり、文書自体は具体的な業種に言及していない。
第2層は、AIの学習データ作成、ラベリング、運用に携わる人たちだ。新職業の職業標準と職称審査が各地で実施されれば、この層は初めて正式な職称の序列に乗る機会を得る。転職、戸籍の取得、等級評価の際に、手持ちの証明がひとつ増えることになる。
第3層は、研究機関とデータだ。中国国内には現在、「AIが何件の仕事を代替したか」を示す公開かつ継続更新の統計がない。文書は専門調査の実施と研究センターの設置を求めており、データが定期的に公表されるようになれば、企業や求職者がどの職種が縮小しているかを判断する際に、求人アプリ上の体感だけに頼らずに済む。
なお、上記は意見の要約を伝える公開報道に基づいており、全文は国務院の公式サイトで公表されたテキストが正となる。文書には目標年次が示されておらず、具体的な数値指標も出ていない。どの条項が実行可能な規定になるかは、今後各部門が出す細則しだいだ。
参考資料:中国政府網、ITホーム(IT之家)、CocoLoop。意見の名称、発出機関、5分野の施策の表現を確認した。