中国、DeepSeekやアリババのAI人材の海外渡航を制限

DeepSeek創業者の梁文鋒氏は今年2月、パリのAIサミットに出席しなかった。招待状を受け取ったが辞退した。当時はスケジュールの問題と見られていたが、ブルームバーグがその背景を明らかにした。中国はDeepSeekやアリババなどの民間企業で「戦略的に重要」と認定されたAI人材の海外渡航を厳しく規制し、出国前に政府の承認を得ることを義務付けている。

役職ではなく、知識に基づく規制

今回の規制の論理は独特だ。役員かどうかや企業規模ではなく、当局による「戦略的価値」の評価に基づく。研究者、創業者、技術責任者など、国外に流出してはならない知識を持つと判断された者が対象となる。

時系列は以下の通り:

  • 2025年3月:当局は米国への渡航を「勧告」するだけのソフトな対応。
  • 2025年12月:DeepSeekの親会社である幻方(High-Flyer)が一部従業員のパスポートを会社レベルで預かり始める。政府の禁止令ではない。
  • 2026年5月:規制が強化され、関連企業すべてに一律の事前承認制が導入され、渡航先を問わず承認が必要に。

象徴的な出来事として、今年3月、Manus AIのCEO肖弘氏とチーフサイエンティスト季逸超氏が国家発展改革委員会によって出国を阻止された。背景には、昨年12月にメタがManusを20億ドルで買収しようとしたが、4月27日にその取引が差し止められた経緯がある。

北京が警戒するもの

要するに、人材が技術を持って国外に流出するのを防ぐことだ。北京はこうした人材を国家安全保障上の資産と見なし、核心的な目的は知識が人材の流れに乗って競合他社に渡るのを防ぐことだ。法的根拠は2017年の国家情報法第7条で、すべての組織と個人は国家情報活動を「支持、協力、配合」しなければならないと定めている。

なぜ今なのか。スタンフォード大学の2026年AIインデックス報告書によると、米中トップAIモデルの性能差はわずか2.7%にまで縮まっている。2023年には17.5~31.6ポイントの差があった。

差が小さければ小さいほど、人材の価値は高まる。追いつく寸前で、重要な人材を逃したくないというのが本音だ。資金面での差は依然として大きく、2025年の米国の民間AI投資は2859億ドル、中国は124億ドル。モデルは追いつきつつあるが、資本の厚みは一桁違う。

この一手の代償

短期的にはパスポート管理で人材を確保できる。しかし、AI業界の生命線は国際交流だ。論文発表、学会参加、人材採用、海外チームとの連携はすべて人の移動に依存している。研究者が出国のたびに報告を求められれば、世界最先端との接触は細くなる。

中国は米国に匹敵するモデルを生み出したが、今度はそのモデルを生み出した人材を行政手段で国内に閉じ込める選択をした。流出を防ぐ一方で、流入も阻む可能性がある。本当に人材を国外に追い出すことになるかどうかは、数年先の長期的な課題だ。

出典:CocoLoop、China Limits Overseas Travel for AI Talent at DeepSeek, Alibaba, Private Firms(Bloomberg);China AI Travel Curbs Reach Alibaba, DeepSeek(TechTimes)