米司法省(DOJ)は、マンハッタンの連邦地方裁判所に「利益陳述書」(statement of interest)を提出し、ニューヨーク・タイムズがOpenAIとマイクロソフトを訴えた訴訟で被告側を支持する立場を明らかにした。文書の核心的な主張は一文に集約される。著作権で保護された作品を使って大規模言語モデルを学習させる行為は、フェアユース(公正利用)に当たるというものだ。
本件はニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所のシドニー・H・スタイン判事が審理している。ニューヨーク・タイムズは2023年末に提訴し、両社が許可なく自社の記事をChatGPTの学習に使用したと主張。双方はすでに略式判決を求める申し立てを行っており、スタイン判事は今週金曜日を提出期限に設定していた。司法省がこのタイミングで文書を提出したのは、狙いすましたものだ。
争点は「変容的」という一語に集約される
司法省の論理はこうだ。学習過程がソース素材から抽出するのは一般化された関係性であり、モデル自体がソース素材を配布するわけではないため、この利用行為は高度に変容的だという。文書はさらに踏み込み、AI開発を科学の進歩、安全保障、米国の経済競争力と結び付け、そこから得られる利益は原作品の市場に生じる競争上の損害をはるかに上回ると主張している。
スタンリー・ウッドワード・ジュニア司法次官補代理はこの文書を「歴史的な利益陳述書」と呼び、大統領自身の見解——「AIでの優位性は、国家安全保障、繁栄、経済的な機会の向上を促進するうえで極めて重要だ」——を引用した。同じ日、米政府当局者はG20の場で、創作者を保護しつつAI学習の余地を各国が残すよう呼びかけており、政権内の足並みは揃っている。
できること、できないこと
利益陳述書は判決ではなく、裁判所を拘束するものでもない。それが提供するのは行政府の政策的な視点であり、裁判官が分析の枠組みを組み立てる際の材料にはなるが、フェアユースの4要素を一つずつ検討する作業の代わりにはならない。特に第4要素——原作品の潜在的な市場に対する影響——は、報道各社が最も強く主張でき、判断が覆る可能性が最も高い部分でもある。AI業界全体が一枚の意見書によって著作権の適用除外を得られるわけでもない。
ニューヨーク・タイムズの広報担当グラハム・ジェームズ氏は強い言葉で応じ、政権が「兆ドル規模のAI企業」の側に立ったと批判し、「健全な社会が依存する、人間が生み出したコンテンツの持続可能性を損なう」ものだと述べた。
波及効果は判決より先に来る
参照点はすでにある。Anthropicは今年、書籍の著作権を巡る訴訟で15億ドルを支払って和解した。同社が著作権で保護された書籍を違法にダウンロードしていたと裁判官が認定した末のことだ。あの訴訟の争点は、データをどう入手したか——海賊版の書籍——という点にあり、学習という行為そのものとは切り離して考えることができる。今回の司法省の文書も同様に、データの入手経路には触れず、学習という工程の性質だけを論じている。
この切り分け方が、今後数年間の交渉における力関係を左右する。「学習は変容的利用である」という枠組みを裁判所が受け入れれば、音楽、出版、報道の各業界が主張できる範囲は、データの入手手段が合法だったかどうかという一点に狭まり、損害賠償の規模も、ライセンス料の算定根拠も縮小する。波及の一端はすでに見えている。中国語のテキストコーパスや映画・音楽の権利を国内で調達する際、買い手は海外のライセンス取引価格を基準にしてきたが、米国で学習が原則フェアユースとされれば、売り手側の価格の基準点は下がっていくとみられる。
判決はまだ出ていない。次の節目は、スタイン判事の手元にある2件の略式判決申し立てだ。
参考資料:米司法省の利益陳述書、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の公開記録、CocoLoop、GV Wire、DataStudios。判事名、訴訟当事者、15億ドルの和解金額は2件の公開報道を突き合わせて確認した。