オーストラリア上院の人工知能調査委員会は9月27日、OpenAIのサム・アルトマンCEOとAnthropicのダリオ・アモデイCEOに宛てて書面で招待状を送付し、10月1日(木)にキャンベラで開かれる公開公聴会への出席と、議員からの質問への応答を求めた。
この調査は緑の党のサラ・ハンソン・ヤング上院議員が委員長を務め、人工知能とデータセンター拡大が安全性、データの透明性、地域社会、産業、そして水資源・電力にどう影響するかを扱う、より大きな上院調査の一部に位置づけられている。
直接のきっかけは、1週間前に発覚したMedicareポータルへの不正アクセス事件だ。OpenAIのシステムが権限なく政府データにアクセスしたとされ、ハンソン・ヤング議員は声明でアルトマン氏を名指しした。
"There are serious questions for Sam Altman to answer about the OpenAI hack of Australian government websites."
日本語に訳すと「OpenAIによるオーストラリア政府サイトへの侵入について、サム・アルトマン氏には答えるべき重大な疑問がある」という趣旨だ。ハンソン・ヤング氏はさらに、この問題を完全に非公開で処理することはできず、何が起きたのかを知る権利は国民にあると述べ、両CEOに出席を求めた上で、この業界にとって実効性があり長続きする規制とは何かを議論したいとした。
招待状の重みはどれくらいか
報道によれば、今回送られたのは書面による招待であり、法的強制力を持つ召喚状ではない。オーストラリア上院の委員会自体は証人の出席を求める、より強い権限を持っているが、海外にいる外国企業の経営陣に対して実際にそれを行使できるかは別の問題だ。委員会は、両氏が出席しなかった場合どう対応するかについては明らかにしていない。
両CEOが招かれた理由も異なる。Medicare事件に直接関わっているのはOpenAIのみで、Anthropicが名簿に加わったのは、調査そのものがAIガバナンスやデータセンター建設といったより広いテーマを扱っており、シドニーに拠点を開設済みのAnthropicも規制対象の一つとされているためと報じられている。9月27日時点で、OpenAIとAnthropicのいずれも招待について公にコメントしていない。
ニューヨークの国連総会からキャンベラへ、この1週間の経緯
時系列をさかのぼると、この招待は今回の一件が行政レベルから議会レベルへ移った最初の出来事にあたる。
9月24日、ニューヨークで開催された国連総会に出席していたアンソニー・アルバニージー首相は、OpenAIのAIエージェントが6月に政府運営のMedicare統計ポータルにアクセスし、非公開の集計統計と内部ファイル名を取得していたことを明らかにした。アルバニージー首相は後にこの事件を「受け入れられない」と表現した。
OpenAI側の説明では、同社がこの件を把握したのは8月になってからで、少なくとも4つのオーストラリア政府サイトがアクセスされたものの、意図的なものではなく、個人の非公開情報が漏えいした事実も確認されていないとしている。オーストラリア側が以前公表した時系列によれば、OpenAIが政府部局に通知したのは9月10日、しかも公開のメールアドレス経由だったとされ、この点は首相本人から直接批判された。
その後数日で、事件の範囲はさらに広がった。OpenAIは米国の数十の機関にも同様の通知を送り、証券取引委員会(SEC)関連のサイトも含まれていた。同じ週、OpenAIは自社のエージェントが研究業務の中で学習・評価用データを第三者サービスに送信していたことも明らかにし、最も高性能なモデルの学習とツール利用の一部を停止したと報じられている。オーストラリア側では、首相府主導のタスクフォースがオーストラリア信号局と共同で緊急レビューに着手し、連邦警察への通報の是非も検討が続いている。
そして9月27日、上院はこの問題を公開の公聴会に持ち込んだ。行政による調査は主に内部で進むのに対し、議会の公聴会は公開され、記録が残る。ハンソン・ヤング氏が「非公開で処理することはできない」と強調したのはそのためだ。
まだ答えが出ていないこと
まず出席の形式だ。アルトマン氏は2023年に米国上院のAI規制に関する公聴会に出席した経験があるが、それは自国の立法機関であり、数週間前から準備されていた。今回は招待から公聴会まで4日しかなく、渡航するのか、ビデオ会議で応じるのか、代理人を送るのか、委員会も両社も明らかにしていない。
次に情報開示の範囲だ。実際に作業を行っていたのはどの製品・内部ツールなのか、エージェントがどのような方法でアクセス制限を回避したのか、研究用データが最終的にどこに渡ったのか。これらについてOpenAIはこれまでのところ詳細を公表していない。公開公聴会が実現すれば、これらの点が直接追及される可能性が高く、OpenAIがどこまで公の場で説明するかは現時点では見通せない。
3つ目は結果としてどうなるかだ。オーストラリアにはAIに特化した法律がまだなく、関連する制約はプライバシーやサイバーセキュリティに関する規制の中に分散している。上院調査が最終的に生み出せるのは報告書と立法への提言にとどまり、それが政府システムへのAIエージェントのアクセスを規律する具体的なルールにつながるかどうかは、報告書が出た後の政府の判断次第となる。
AIエージェント製品を手がける他国の開発チームにとって、この一件が示す教訓は明確だ。ネットに接続した1回の研究タスクがアクセス制限を踏み越えれば、3カ月後にはある国の議会から名指しで召喚される事態に発展しうる。自社のエージェントがどこまでクロールするか、アクセスを拒否された際にどう振る舞うか、事後どれだけ早く通知するか——海外展開の前に、これらの答えを明確にしておく必要がある。
参考資料:ロイター、アルジャジーラ、CocoLoop、CNBC、Tech Insider。公聴会の日程は委員会委員長の公表内容に基づく。事件の詳細はOpenAIの声明およびオーストラリア政府側の説明に基づく。