Cohereは5月20日、フラッグシップモデルCommand A+をApache 2.0ライセンスでオープンソース化し、ウェイトをHugging Faceで公開した。同モデルは218BパラメータのMoEアーキテクチャを採用し、推論ごとに25Bのみを活性化する。CohereがApache 2.0で完全オープンソース化した初のフラッグシップモデルとなる。
Cohereは過去2年間、シティ、PwC、Oracleなどの大企業を顧客とするエンタープライズAI企業としての地位を築いてきた。こうした顧客は、自社で実行、変更、データ管理ができることを求めており、オープンソースはその要件を満たす。Apache 2.0でのリリースは、Cohereが Sovereign AI に本格的に賭けることを意味する。
ハードウェア要件をH100 2枚に削減
Command A+はMoEモデルで、総パラメータ218B、活性化パラメータは25Bのみ。推論コストは活性化部分のみで計算される。Cohereが示すデプロイ要件:
- B200 GPU 1枚で動作可能
- またはH100 GPU 2枚(W4A4量子化)
- 16ビットBF16、8ビットFP8、4ビットW4A4の3段階の量子化をHugging Faceで公開
H100 2枚という要件は、主流の大規模モデルに必要な4~8枚から大幅に削減されており、Cohereはほぼロスレス量子化を実現したと主張する。これは企業のIT調達における重要な閾値となる。
旧バージョンとのベンチマーク比較
| ベンチマーク | Command A Reasoning(旧) | Command A+(新) |
|---|---|---|
| τ²-Bench Telecom | 37% | 85% |
| Terminal-Bench Hard Code | 3% | 25% |
| MMMU Pro | - | 63% |
| MathVista | - | 80.6% |
| Artificial Analysis Intelligence Index | - | 37 |
τ²-Bench Telecomが37%から85%へ、Terminal-Bench Codeが3%から25%へと大幅に向上しており、エージェントタスク向けの大規模なアーキテクチャ変更が行われたことがわかる。Artificial Analysisスコア37はLlama 4やQwen 3.5などの主要オープンソースモデルと同等だが、H100 2枚で動作する点がこの性能帯では希少。出力トークン/秒は旧版比63%向上、初回トークン遅延は17%低減しており、エンタープライズエージェントシナリオで重要な指標だ。
Sovereign AIとは
Cohereのブログでは、Command A+は「sovereign critical infrastructure」向けに構築されたと説明されている。Sovereign AIとは、モデルの重みとデータを自社のデータセンター内で完全に運用し、外部APIやローカルネットワークの外部への依存を排除することを意味する。このニーズが高いのは、中央銀行、国防省、エネルギー・電力会社、大規模保険・年金基金、GDPRの厳格な規制下にある欧州企業など。これらの顧客にとって、AI導入の最大の障壁はデータの外部流出であり、OpenAIやAnthropicのAPIがいかに安価でも、ファイアウォールを越えるAPIコールが必要な限り取引は成立しない。Cohereはこのセグメントに賭けている。富士通のVivek Mahajan執行役員はCohereの発表で次のように述べている。「Command A+のMixture-of-Expertsアーキテクチャと強力なエージェント性能は、革新的なSovereign AIソリューションを提供するという当社の協議分とよく合致しています。」富士通は日本政府の主要ITベンダーであり、各省庁、金融機関、重要インフラを顧客としている。その支持は、日本政府が近年強調するAI国産化の流れを反映している。
ネイティブ引用:企業にとって重要な詳細
Command A+には、ネイティブ引用と呼ばれる機能が搭載されている。モデルが外部ツールやデータベースから情報を取得する際、各発言を参照元の特定のドキュメントやデータベース行に直接リンクするグラウンディングスパンを自動的に含める。これは企業の内部知識ベースQ&Aにおいて、回答の出所を検証する際の大きな課題を解決する。従来は外部RAGシステムで手動で引用をバインドする必要があったが、Cohereは監査トレイルをネイティブ機能として組み込んだ。これは法務、コンプライアンス、監査部門にとって直接的な購買決定要因となる。
競合と市場ポジショニング
Command A+はChatGPTやClaudeと消費者市場で競合するものではない。Cohereはその戦いをそもそも行っていない。狙うのはMetaのLlamaが支配するエンタープライズオープンソース市場だ。Llama 4はオープンソースだが、一定規模以上の企業向けには個別ライセンスが必要な商用利用制限がある。Command A+はApache 2.0の下で、規模やシナリオを問わず自由に商用利用できる。この違いは企業のIT責任者にとって大きい。この戦略が成功するかは、Cohereの次回ARRレポート次第だが、2026年5月20日現在、オープンソースAIのテーブルにSovereign AIに真剣に取り組むプレイヤーが加わった。
出典:CocoLoop、Introducing Command A+(Cohere公式ブログ)、Cohere cracks lossless quantization and native citations with first full Apache 2.0 licensed open model Command A+(VentureBeat)、Cohere Releases Command A+: An Open-Source Enterprise AI Model Built for Sovereign Critical Infrastructure(Business Wire / Yahoo Finance)