Hugging Face傘下のPollen Roboticsが先週、二足歩行ロボット「Microduck」を399ドルで発売した。予約開始から24時間で受注総額は260万ドルを突破し、台数にして約6500台、ピーク時は4秒に1台のペースで売れた。単価から逆算すると受注額と台数はきれいに一致しており、高額オプションで水増しされたわけではない。
本体は身長25センチ、重量800グラム未満。Dynamixel XL330サーボを15基搭載し、カメラ、深度センサー、IMUを2基備える。メイン制御はRockchip RK3566。頭部のアヒルのくちばしは可動関節になっており、把持力は約800グラムで、物をくわえたまま歩くことができる。
頭脳は7つのRustプロセス
Microduckのソフトウェアスタックは、いかなるWebフレームワークの上にも構築されていない。ランタイム全体は7つのRustデーモンで構成され、それぞれがUnixソケット上でJSON-RPC 2.0により通信し、メッセージはNDJSON形式で1行ずつやり取りされる。
役割分担は明快だ。robotdがハードウェアへのアクセスを独占し、50Hzの制御ループを回す。configdはWiFi、ID、コントローラーのペアリングを管理する。updaterdはOTAアップデート、チェックサム検証、ロールバックを担う。btdはBluetooth GATTの透過処理を、paddはコントローラー入力の転送を担当する。mediadはカメラ、推論、WebRTCを管理し、tofdは頭部の深度センサーだけを専属で処理する。プロジェクト全体の依存関係は約30個。
モーター制御権を単一プロセスに集約するのは、組み込みロボティクスではよくある安全策だ。制御ループが他のタスクに横取りされた瞬間、ロボットはその場で転倒してしまう。この層をRustで書くことで、ガベージコレクションの一時停止に伴うジッターを避けている。
歩行は学習で身につけたもの
歩行、転倒からの自己起き上がり、ボールを蹴る、ローラースケートなど十数種類の動作能力は、いずれもステートマシンとして書かれたものではない。シミュレーション内で強化学習によって訓練し、それを実機に転移させたものだ。訓練フレームワークはMuJoCo Warpをベースとしたmjlabで、アルゴリズムはPPO、制御周波数は50Hz、観測ベクトルは固有受容感覚・速度・姿勢指令を含む61次元。最終的な方策はONNXに変換され、機体上で動作する。
シミュレーションの作り込みは大半のオープンソースプロジェクトより細かい。電圧制御則、逆起電力、ギアのバックラッシュ(±1°)、クーロン摩擦といった、普段は見落とされがちな要素までモデルに組み込んでいる。sim2real転移の失敗は、こうしたモデル化されていない要素に起因することが多いためだ。4096個の並列環境で1〜2時間学習させれば実用的な方策が得られ、この規模の計算量はコンシューマー向けGPU1枚で十分まかなえる。
リポジトリは2つとも公開されている。Rustランタイムはpollen-robotics/microduck、強化学習のPythonコードはpollen-robotics/microduck_rlにある。
供給が受注に追いつかない
製造は深センのSeeed Studioが担当する。初回出荷はすでに2026年のクリスマス以降にずれ込んでおり、新規注文は4〜6カ月待ちとなっている。公式が掲げる販売目標は2万台。399ドルで単純計算すると、2万台分の売上は800万ドル規模(概算)にとどまり、Hugging Face全体の事業規模から見れば大きなビジネスとは言えない。
これはむしろ一種のプロモーションに近い。これまでこの種のプログラム可能な二足歩行研究プラットフォームは数千ドルから数万ドルが相場で、ハードウェア調達費だけで身体性AIへの参入障壁となってきた。399ドルという価格は、その障壁を個人開発者の日常的な出費の範囲まで引き下げる。Pollenが望むのは、誰かがこのスタックを使って方策を改良し、学習済みの重みを公開し、プルリクエストを送ることだ——モデルの重みがオープンソース化された後に起きたのと同じことが、今度は物理的な挙動という対象で再現されることを狙っている。
初回出荷は年末までかかる。コミュニティがこの盛り上がりを受け止められるかどうかは、そのときまでにリポジトリにどれだけ他人が学習させた方策が積み上がっているかにかかっている。
参考資料:Pollen Roboticsプロジェクトリポジトリ、CocoLoop、Tony Bai氏による技術解説、新浪科技。ハードウェア仕様とソフトウェアアーキテクチャは公式リポジトリに基づき、受注額と初日の台数は公開報道と照合した。