WeChat Payは、AI専用カードの連携先としてDeepSeek HarnessとOpenClawの2アプリを新たに追加したと発表した。このカードはすでにWorkBuddyとQClawとも接続されている。ユーザーが認可・紐付けを済ませれば、対話の中で要望を伝えるだけで、AIが提案から発注、決済までの一連の流れを代行してくれる。
現時点でこのカードを使って決済できるのは、Skillhub上で公開されている700あまりのPay Skillだ。
メインアカウントから切り離された1枚のカード
この設計のポイントはアカウント構造にある。AI専用カードはWeChat Payのメインアカウントと完全に分離されており、カード内の残高はユーザー自身が設定し、いつでも入出金できる。AIが動かせるお金は、このカードに入っている分だけだ。さらに、引き落としのたびにユーザーによる二次確認が必要になる。
公式が示す利用フローは4ステップだ。インストールコマンドをコピーし、認可・紐付けを行い、AIがPay Skillを呼び出し、ユーザーが支払いを確認する。報道では、こんなたとえも引用されている。「子どもの頃、大人からタバコを買ってきてと具体的な金額を渡されたようなものだ」。大人が渡すのは決まった金額であり、財布そのものは手元に残る。
リスク管理の言葉に置き換えれば、上限付きのサンドボックスアカウントに、人による承認を1段加えた仕組みということになる。AIエージェントに決済をさせてよいかは、この1年ずっと議論の的になってきたが、ネックは常に「信頼」だった。分離アカウントは、決済基盤そのものを作り直す必要もモデルにメインアカウントの権限を開放する必要もない、いまのところ最もコストの低い解決策だ。
700のPay Skillが供給側を担う
決済がつながったのは話の半分に過ぎず、もう半分は買うものがあるかどうかだ。Skillhub上の700あまりのPay Skillは、その供給側のストックにあたる。これらのスキル自体が有料であり、AIがそれを呼び出すたびに専用カードから料金が引き落とされる。
これは従来のECのロジックとは少し違う。これまでの決済がつながっていたのは「モノ」だったが、今回つながるのは「能力」だ。1回のAPI呼び出し、1本の動画レンダリング、1件のデータ照会など、単価は総じて低いが頻度は高くなり得る。単価が低く頻度が高い場面こそ、二次確認が最もつらい。数十円使うたびにポップアップが出れば、体験は崩れてしまう。
だからこそ、限度額の設定という一歩が見た目以上に重要になる。ユーザーがあらかじめ一定額をカードに入れておくことは、認可という行為を前倒しで済ませることに等しい。それ以降の確認は、不正利用を防ぐためというより、モデルの暴走を止めるためのものだ。
誤発注の責任は誰が負うのか
モデルが発注した場合、責任の所在にはまだ明確な答えがない。決済ボタンを押したのはユーザー自身であり、法的にはユーザーの意思表示とされる。しかし、ユーザーが確認しているのはモデルが提示したプランであり、そのプランにハルシネーションがないか、誘導されていないかを、ユーザー自身が見抜くのは難しい。
海外に目を向けると、VisaはすでにChatGPTに決済ネットワークを接続しており、限度額と認可をミドルウェア的な層として組み込むという、似た方向性を取っている。中国と海外でこの動きがほぼ同じタイミングで出てきたことは、「AIにお金を触らせてよいか」という問いに対する第一の答えが、小額かつ随時リセット可能なカードという形で一致していることを示している。
本当の試練は、この仕組みが規模を伴って動き出した後にやってくる。モデル発の少額決済が1日に数十万件走るようになれば、苦情対応や返金、紛争処理のプロセスもすべて作り直しが必要になる。現時点で、この分離アカウント方式はリスクを1枚のカードの上限内に封じ込めており、そこがもっとも巧妙な点だ。
参考資料:WeChat Pay公式発表、CocoLoop、IT之家;専用カードの残高分離の仕組み、二次確認フロー、Skillhub上で呼び出し可能なPay Skill数は確認済み。