イーライリリーとNVIDIA、創薬向けAI共創ラボに10億ドル投資—LillyPodも稼働

製薬業界は長年、AIにとって最も難しい分野の一つとされてきた。データは複雑で規制は厳しく、失敗率が高く、開発サイクルは極めて長い。

しかし今年2月、イーライリリー(Eli Lilly)は業界の注目を集める装置を稼働させた。LillyPodである。

LillyPodとは

LillyPodは、製薬企業が単独で所有・運営するAIスーパーコンピューティングクラスターであり、医薬品業界で初めての試みとなる。

ハードウェア構成:1,016基のNVIDIA Blackwell Ultra(DGX B300)GPU、総演算性能は9,000ペタフロップス(9京回の浮動小数点演算/秒)を超える。

構築決定から稼働開始まで、わずか4か月だった。

イーライリリーはこれをAIファクトリーと位置づけ、単一のタスクではなく、タンパク質構造予測、ゲノム解析、化合物スクリーニング、臨床試験設計、製造最適化に至るまで、創薬パイプライン全体をこの上で稼働させる。

なぜイーライリリーは自社構築したのか

従来の製薬企業はAIをクラウド事業者やAIサービスベンダーに委託するのが一般的だった。イーライリリーは計算能力を自社で管理する道を選んだ。

その理由はいくつかある:

  • 創薬データは極めて機密性が高く、外部クラウドではデータ主権とコンプライアンス上のリスクが存在する
  • 自社構築により、創薬シナリオに特化した最適化が可能で、他の顧客とリソースを競合する必要がない
  • 700TBのゲノムデータ、290TBのGPU高帯域幅メモリー——この規模を外部で実行するにはコストが高すぎる

NVIDIAとの10億ドル規模の協業

LillyPodはイーライリリーとNVIDIAの協業の一部に過ぎない。

両社は同時に、サンフランシスコにAI共創ラボ(Co-Innovation Lab)を共同設立し、5年間で最大10億ドルを人材、インフラ、計算能力に投入することを発表した。

重点分野:タンパク質拡散モデルのトレーニング、低分子グラフニューラルネットワーク、ゲノム基盤モデル。

これはAIを新薬開発の最も初期かつ最も高コストな段階——通常、失敗率が最も高い部分——に介入させることに相当する。

業界の背景

2026年、AI創薬は有望な段階から成果を出し始める段階へと移行している。

同時期の動き:

  • イーライリリーはInsilico Medicine(AI創薬企業)から最大27.5億ドルで複数の前臨床候補化合物を導入
  • 中国の研究チームが発表したDrugCLIPフレームワークは、数時間で1,000万の化合物-標的ペアをスキャン可能で、従来の仮想スクリーニングより1,000万倍高速
  • 複数のAI設計による医薬品候補が臨床試験を進めている

製薬企業は今や、候補分子を見つけることではなく、数千万の候補から臨床試験に進める最適なものをいかに迅速に選別するかが課題となっている。

LillyPodが目指すのは、この選別プロセスを計算能力の制約から解放することである。

出典:CocoLoop、Lilly Launches LillyPod NVIDIA DGX SuperPOD for Genomics and Drug Discovery AI(HPCwire/AIwire);NVIDIA and Lilly Announce Co-Innovation AI Lab to Reinvent Drug Discovery(NVIDIA Newsroom);AI in Drug Discovery Hits New Milestone(AI News International)