Googleは、「プロジェクト・サンキャッチャー」(Project Suncatcher)向けに打ち上げた最初の試作衛星が軌道投入に成功し、地上局との通信も確立、想定通りに動作していると発表した。自社開発のAIチップTPUを実際に宇宙空間で通電させ、モデルを動かしたのは今回が初めてとなる。
衛星は10月1日、カリフォルニア州バンデンバーグ宇宙軍基地からスペースXのファルコン9ロケット「トランスポーター18」の相乗り打ち上げで軌道に投入された。製造を担当したのは衛星メーカーのPlanetで、社内コードネームは「MVP」(Minimum Viable Product、実用最小限の製品)。平均軌道高度は約650kmとなっている。
衛星に何が搭載されているか
衛星にはTrillium TPU 4基が搭載されている。GoogleのTPU第6世代(v6e)を宇宙仕様に改修したもので、専用に開発された耐放射線チップではない。太陽電池パネルの出力は約1キロワットで、チップはGeminiの短い推論リクエストを処理する。
宇宙空間には空気がなく、ファンによる冷却は使えない。熱はヒートパイプを通じて赤外線放熱板に伝えられ、放射によって逃がすしかない。そのためチップは約15分間動作するたびに停止し、温度が下がるのを待って再始動する。The Registerが入手したGoogleの設計資料によれば、TPU1基あたり約1.3平方メートルの放熱面積が必要で、これはGoogle自身もまだ解決できていない技術課題だと認めているという。
今回の衛星が確認すべき課題は3つある。打ち上げ時の振動や加速度にチップが耐えられるか、軌道上の放射線で劣化しないか、低軌道特有の激しい温度変化の中で安定動作できるか——という点だ。この3条件を同時に再現できる地上の実験施設は存在しない。
地上試験ではすでに何を確認したか
打ち上げ前、Googleはカリフォルニア大学デービス校のクロッカー核研究所で、Trillium TPUに陽子ビームを照射する試験を実施した。線量は遮蔽ありの5年間の宇宙ミッションに相当する水準。結果、総電離線量による致命的な故障は発生しなかった。メモリに異常が出始めたのは、5年ミッション想定線量の約3倍の段階だったという。
このほか、打ち上げを模した振動試験や、軌道環境を再現した熱真空試験も実施済みで、今回得られた軌道上データはこれらの地上試験結果と照合される。Googleのロードマップによれば、2027年には衛星間を結ぶ高帯域のレーザー通信リンクの試験も予定している。数十基、数百基の衛星を一つの演算クラスターとして束ねるために必要な技術だ。
打ち上げコストという大きな壁
Googleは昨年11月にこの計画を発表した際、ひとつの前提条件を示していた。打ち上げコストが1キログラムあたり約200ドルを下回らない限り、宇宙データセンターの演算あたりのエネルギーコストは地上のデータセンターに届かない、というものだ。実現時期は2030年代半ば頃を見込むとしている。
The Registerによれば、現在の打ち上げ価格は1キログラムあたり約7000ドル。単純計算で約35倍の開きがある。放熱板だけを見ても、TPU1基につき1.3平方メートルが必要で、Googleが想定するように1基の衛星に数十個のTPUを搭載するとなれば、放熱構造だけで数十平方メートル規模になる。さらに太陽電池パネルやレーザー通信端末も加わるため、衛星1基の質量を抑えるのは容易ではない。打ち上げ価格がこの水準まで下がるかどうかは、スターシップのような完全再使用型ロケットの開発進捗に大きく左右され、Google自身にはコントロールできない要素だ。
競合も動いている。Starcloudは昨年、NVIDIAのH100を軌道に送り込んだ。SpaceXも2027年末までに軌道上の演算実証システムを展開する方針を示している。これに対しGoogleの進め方はより慎重で、まずはチップ4基の小型衛星1基で数週間分のデータを集め、その後の方針を判断するという。
参考資料:The Register、CocoLoop、DIGITIMES、Forkast、Google Researchのプロジェクト・サンキャッチャー論文。放射線試験の結果と1キログラムあたり200ドルというコストの目安は同論文で、放熱面積と現在の打ち上げ価格はThe Registerの記事で確認した。