Anthropicは8月18日、実験記録を公開した。Claudeに特定の蛋白質標的に結合する低分子結合体をゼロから設計させたところ、15標的中14標的で使用可能な設計を得られたという。合成と検証はAdaptyv BioとTwist Bioscienceが担当しており、モデル自身が採点したわけではない。
結論よりも数字の説得力が大きい。マルチターゲットモードでは、Mythos Previewのヒット率が26.7%、Opus 4.8が22.6%だった。単一標的に絞ると、Mythos Previewは35.1%まで上昇した。参考までに、この分野で公開されている典型的なヒット率は10~15%とされる。全体では1320個の設計から354個の実験検証済み結合体が得られ、6標的で高親和性結合体が得られた。うち4標的の設計は既発表の最高水準に並ぶか上回った。
難関ターゲットの数々
RBX1はその差を最もよく表す標的だ。Claudeのヒット率はこの標的で40%に達したのに対し、同じ課題を扱ったコンペティションの参加者平均はわずか3.7%。最終的な設計は、その年の優勝作品も上回った。
TNFαでは種を跨いだ設計に挑んだ。同一バッチの設計が、ヒト・カニクイザル・マウスそれぞれのタンパク質に同時に結合した。これは創薬において重い意味を持つ。動物実験とヒト試験で同じ分子を使い回せるかどうかは、初期開発期間を直接左右するからだ。
もう一組は難易度の高さをあえて狙ったものだ。β-シート含有率の高い結合体の設計である。この種の構造は、β鎖同士のペアリングに許容誤差が小さいため、計算設計では従来から難物とされてきた。今回はβ鎖比率20%以上の有効な結合体を15個作り出した。
失敗した部分も公式に記されている。BBF-14とMBPの2標的では成績が振るわなかった。良い結果だけを並べた実験記録は誰にも信用されない。この2件を載せたことが、かえって残りのデータの信頼性を高めている。
計算コストの内訳
この工程は安くない。マルチターゲットモードでは1回あたり最大12500 NVIDIA H100時間を消費し、ウォールクロックで48時間かかる。単一標的モードでは1標的あたり2500 H100時間、24時間で完了する。初期プロンプトは約3万トークンだ。
現在のクラウドにおけるH100の一般的なレンタル価格を1時間2~3ドルとして概算すると、12500時間は1回あたり2万~3万ドルに相当し、15標的に割り振ると1標的あたり2000ドル前後になる。この金額は創薬初期段階の予算の中では大きな額ではない。1回分のタンパク質合成と親和性検証というウェットラボの実験コスト自体が同程度の規模であり、従来の手法では同じヒット率に近づくために何度も試行錯誤を重ねる必要がある。この工程の中で計算資源が最も安価な部分になった、という結論は数年前には成り立たなかった。
ついでにやったもう一つのこと
同じ一連の実験には、Claude Opus 5を使った分析化学のテストも含まれていた。課題は実際の実験機器の出力データを処理することで、NMRスペクトルは23分、LC-MSデータは19分で処理を終えた。LC-MSの生データは専用フォーマットだったが、モデルは自らそれを解析し、2664回分のスキャンデータを照合した。
精度の対照はこうだ。水素原子数のカウントは人手の結果と比べて0.08 ¹H以内の誤差にとどまり、純度測定は96.4%を示した。実験室の対照値は96.33%だった。測定を終えたモデルは、次に行うべき検証実験を自ら提案し、その内容は実験室が元々予定していた計画と一致していた。
この部分の重みは、前段の蛋白質のデータに埋もれてしまうかもしれない。創薬において最も人手を食うのは設計工程ではなく、毎日何十枚何百枚ものスペクトルを読み解いて記録する作業であり、それはポスドクの日常業務だ。専用フォーマットの機器ファイルを読み解き、次にすべきことを自ら判断できるモデルは、まさにこの部分に手を付けている。
付随する制限
Anthropicはレポートの中で明確にこう記している。蛋白質設計、および他のデュアルユース性を持つ生物学研究能力は、Claude Fable 5では一般ユーザーに開放されていない。これは同社が能動的に設けた関門だ。結合体を設計する能力は、他のものを設計する能力にも転用できるため、同社はそれを直接コンシューマー向け製品に組み込むのではなく、管理されたチャネルの中に置くことを選んだ。
実験に使われたデータセットとプロンプトはすでにHugging Face上で公開されており、蛋白質設計と化学分析それぞれについて技術レポートが1本ずつ公開されている。プロンプトまで併せて公開したという事実は、Anthropicがこの手法のハードルを計算資源とウェットラボ工程にあると見ており、プロンプトエンジニアリング自体にはないと考えていることを示している。
参考資料:Anthropic公式リサーチページ、Adaptyv BioとTwist Bioscienceの実験記録、CocoLoop、Hugging Face公開データセット。ヒット率の定義、H100時間数、純度測定の対照値96.4%を確認済み。