4月2日、マイクロソフトは自社開発のAIモデル「MAI-Transcribe-1」「MAI-Voice-1」「MAI-Image-2」をひっそりと公開した。記者会見も大々的な発表もなく、Microsoft Foundryプラットフォーム上で直接販売を開始した。
しかし、この動きの重要性は3つのモデルそのものにとどまらない。
3つのモデルの概要
MAI-Transcribe-1:音声認識。世界で最も広く使われる25言語に対応し、FLEURSベンチマークで単語誤り率3.8%を達成。OpenAIのWhisperやGoogleのGeminiを下回る。既存のAzure Speechサービスと比較して2.5倍高速。価格は1時間あたり0.36ドル。
特筆すべき点として、このモデルはわずか10人のチームで開発された。
MAI-Voice-1:音声合成。1枚のGPU上で1秒以内に60秒の音声を生成可能。短い音声サンプルからの声のクローン作成に対応。価格は100万文字あたり22ドル。
MAI-Image-2:画像生成。Arena.aiのテキストから画像へのリーダーボードで3位にランクインし、前世代比で少なくとも2倍の速度を実現。価格はテキスト入力が100万トークンあたり5ドル、画像出力が100万トークンあたり33ドル。初期のエンタープライズユーザーには世界最大の広告グループWPPが含まれる。
なぜ重要なのか
表面的にはマイクロソフトがいくつかの基盤モデルをリリースしたように見えるが、本質的には自らの安全策を構築しているのだ。
マイクロソフトとOpenAIの関係は、2019年以来、単なる投資家と被投資企業の関係ではない。マイクロソフトは初期に130億ドルを投入し、OpenAIの技術を製品構築に利用する独占的権利を獲得した。CopilotやAzure AIの背後にある中核モデルは、ほとんどがOpenAIのものだ。
しかし、この高い依存度は諸刃の剣である。OpenAIがAPI価格を調整したり、契約条件を変更したり、あるいは買収されたり問題を抱えたりすれば、マイクロソフトのAI製品群は窮地に立たされる。
昨年9月、マイクロソフトは契約を再交渉した。2500億ドルのAzureクラウドサービス契約を確約すると同時に、重要な条項を勝ち取った。マイクロソフトが競合するAIモデルを独自に開発することを許可するという条項である。これは以前は禁止されていた。
MAIチームは2025年11月に設立され、マイクロソフトAIのCEOであるムスタファ・スレイマンが率いている。チーム発足から5ヶ月で3つのモデルがリリースされた。
真の堀は技術ではない
マイクロソフト自身も、これらの3つのモデルが技術的にOpenAIやGoogleを凌駕するものではないことを認識している。
本当の切り札は販売網である。Microsoft Foundryプラットフォームには8万以上のエンタープライズ顧客が登録しており、フォーチュン500の80%をカバーしている。
「十分に使えて、より安く、より高速な」内蔵モデルをこれら8万の企業に直接提供することで、マイクロソフトはすべてのベンチマークで1位を取る必要はない。モデルが十分で、安定しており、スムーズに統合できれば、企業はそれを使う。これこそがAI競争におけるマイクロソフトの自然な優位性であり、OpenAIやAnthropicにはない販売網である。
ムスタファ・スレイマンの次の一手
スレイマンはフィナンシャル・タイムズの取材に対し、マイクロソフトの目標はAI分野における「真の自給自足」を達成することだと語った。
彼のタイムラインは2027年であり、マイクロソフトはその時までに、OpenAIの旗艦モデルと直接競合するフロンティアレベルの汎用LLMをリリースする計画だ。
マイクロソフトの視点から見れば、これはOpenAIと決別することではなく、交渉の材料を蓄積することである。結局のところ、自社のモデルを持っていれば、契約更新の交渉のテーブルは全く違ったものになる。
出典:Microsoft takes on AI rivals with three new foundational models(TechCrunch);Microsoft launches three in-house AI models in direct challenge to OpenAI(The Next Web);Today we're announcing 3 new world class MAI models, CocoLoop、 available in Foundry(Microsoft AI公式ブログ)