香港のゴールドマン・サックスのトレーダーが月曜朝、社内AIプラットフォームを開くと、Claudeが消えていた。
Geminiは残っていた。ChatGPTも残っていた。消えたのは、コード作成や投資銀行業務のモデル運用に使われていたAnthropicのClaudeだけだった。ReutersとFinancial Timesは4月29日、この件を技術障害ではなく契約上の線引きとして報じた。
技術問題ではなく契約条項の問題
これはAnthropicによる遮断でも、Goldmanが世界的にClaudeをやめた話でもない。GoldmanはAnthropicとの契約を見直し、Anthropicの法務側と次の点を確認した。
香港は、Anthropic APIとClaude.aiの公式サポート地域に含まれていない。
Anthropicの公開リストには日本、シンガポール、韓国はあるが、香港はない。Goldmanの法務部門はその記載を厳格に解釈し、香港拠点の社員は利用できないと判断した。
微妙なのは、Anthropicが「香港を禁止する」と明言したわけでも、Goldmanが「Claudeを信頼しない」と言ったわけでもない点だ。双方とも契約遵守の枠内で動いた結果、香港の数千人規模の銀行員がClaudeを失った。
GoldmanはClaudeに深く入り込んでいた
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年2月 | GoldmanのCIO、Marco Argenti氏がAnthropicとAI agentを共同開発し、より多くの業務を自動化すると説明。 |
| それ以前 | Claude CodeはGoldmanのグローバルなコード開発ラインで使われていた。 |
| 2026年4月 | 香港拠点でClaudeアクセスが停止。 |
つまりGoldmanはClaudeの重要顧客であり、CIOも関係を公に後押ししていた。今回の停止は香港だけが対象で、他の地域のオフィスでは利用が続いている。
なぜ香港で、なぜ今なのか
時期は無視できない。5月中旬にはトランプ氏と習近平氏の首脳会談が予定されていた。その数週間前、香港金融管理局(HKMA)は主要銀行に対し、Anthropicの最新モデルMythosが香港の銀行システムにもたらすリスクを評価したかどうかを問い合わせていた。
金融業界では、この種の質問は規制当局からのシグナルとして受け止められる。Goldmanが契約条項に沿ってアクセスを外したのは、問題がより政治的になる前にコンプライアンス上の整理を済ませる動きでもある。
越境データと規制リスクについて、銀行は賭けに出ない。Anthropicの利用条件に香港がないなら、法務上は「ない」。法務が使えないと言えば、業務部門はClaude CodeやMythosの脆弱性調査機能を失っても従う。
誰も正面からは語らない
- Goldman: コメントを拒否。
- HKMA: コメントを拒否。
- Anthropic: Financial Timesに対し、Claudeモデルは香港で公式サポートされたことはないと説明。
どの回答も「地政学」という言葉を避けている。ただ、市場関係者はその意味を理解している。
問題は一支店にとどまらない
大手投資銀行でのClaudeの浸透は、この半年で急速に進んだ。Morgan Stanley、JPMorgan、Goldmanはいずれも社内ワークフローにClaude Codeを広げている。地域ごとにアクセスを切る前例ができれば、シンガポールやドバイのような敏感な市場でも契約の再点検が必要になる可能性がある。
Anthropicにとっても難題だ。対象地域を広げれば、各法域でのコンプライアンス、データ所在、法務対応のコストが上がる。広げなければ、企業顧客の法務部門に地域単位でアクセスを切られる余地が残る。
次の判断は、5月の首脳会談後に来るかもしれない。
参考資料:Goldman Cuts Access to Anthropic's Claude for Hong Kong Bankers、CocoLoop、Source Says(Reuters / Yahoo Finance)、Goldman Staff in Hong Kong Lose Access to Anthropic's Claude(Bloomberg)、Why Goldman Sachs Blocked Hong Kong Bankers from Anthropic's Claude AI(Disruption Banking)