Google Cloud Next '26 は 3 日間にわたって開催され、最大のシグナルは一言に集約される。Vertex AI という名称は廃止され、新名称は Gemini Enterprise Agent Platform となる。
名称変更だけに聞こえるかもしれないが、Google は今回、製品ライン全体、ハードウェアロードマップ全体、さらにはクラウドサービスの販売方法までも、「エージェント」という中核概念を中心に再構築した。
Vertex AI は何になったのか
Gemini Enterprise Agent Platform は Vertex AI の単なる名称変更ではない。エージェント専用に設計されたフルスタックプラットフォームとして書き換えられている。
200 以上のモデルを統合しており、Google 自社の Gemini 3.1 Pro、Flash Image、Lyria 3、Gemma 4 に加え、Anthropic の Claude Opus、Sonnet、Haiku も直接搭載している。これは微妙だが重要な動きだ。Google は Anthropic に 400 億ドルを投資する一方で、Claude を自社の Gemini と同等の選択肢としてエンタープライズ製品に位置づけている。
Google によると、プラットフォームのコンポーネントはエージェントのライフサイクル全体をカバーする。
- Agent Studio — 開発環境
- Agent Development Kit — SDK
- Agent Runtime — ランタイム
- Agent-to-Agent Orchestration — マルチエージェント連携
- Agent Gateway — トラフィックおよびアクセス制御
- Agent Identity — アイデンティティ認証
- Agent Registry — レジストリ
- Agent Observability — 可観測性
- Agent Simulation / Evaluation — シミュレーションと評価
この用語に詳しい人なら気づくだろう。Google は過去 10 年のクラウドネイティブスタック(Service Mesh、API Gateway、Identity など)をそのままエージェントに移植している。一言で言えば、エージェントを新しいサービス形態として管理するということだ。
TPU がついに 2 つのラインに分割
ハードウェア面では、第 8 世代 TPU が正式発表されたが、従来のように 1 つの「汎用」チップではなく、トレーニングと推論が 2 つの製品ラインに分割された。
TPU 8t(トレーニング版):
- 単一スーパーポッドは 9,600 チップに拡張
- 共有メモリ 2 PB
- 演算能力 121 ExaFlops
- ポッドあたりの演算能力は前世代の 約 3 倍
- ストレージアクセス速度は前世代の 10 倍
TPU 8i(推論版):
- オンチップ SRAM は 3 倍
- インターコネクト帯域幅は 2 倍の 19.2 Tb/s
- 1 ドルあたりの性能が 80% 向上
この分割の背景にある判断は明確だ。トレーニングと推論ではハードウェア要件が大きく乖離している。トレーニングには分散最適化のための超大容量共有メモリが必要であり、推論には低レイテンシ、高帯域幅インターコネクト、大容量オンチップキャッシュが求められる。1 つのチップで両方を満たそうとするのは、もはやコスト効率が悪い。
NVIDIA も同様の道を歩んできた(H100/H200 と L40S の分化)が、Google はこの区別を TPU の世代名に直接組み込み、より果断な姿勢を示した。
データセンター全体を再設計
新しい TPU を支えるのは、Virgo Network と呼ばれる新しいデータセンターアーキテクチャだ。
- 1 つのネットワークで 13 万 4,000 個の TPU 8t を接続
- ノンブロッキング帯域幅 47 Pb/s
- TPU 8t あたりの利用可能帯域幅は前世代の 4 倍
- 無負荷レイテンシは 40% 低減
47 Pb/s がどれほどのものか。世界のインターネットコアノードの総帯域幅を 1 つのデータセンターに詰め込んだようなものだ。
ソフトウェア層でもコスト削減を追求
ハードウェアだけでは不十分で、ソフトウェア層でも運用コストの大幅な削減が図られている。
- GKE Agent Sandbox:毎秒 300 のサンドボックスを起動、1 ドルあたりの性能が 30% 向上
- BigQuery fluid scaling:平均コスト 34% 削減
- Lightning Engine for Apache Spark:1 ドルあたりの性能が 2 倍
- Managed Lustre:スループット最大 10 TB/s
- M4N 仮想マシンシリーズ:Oracle ワークロード実行時、TCO が 20% 以上削減
これらのデータ層とオーケストレーション層の施策は、Vertex AI を使う余裕はないが AI を導入する必要がある従来型のエンタープライズワークロードを狙ったものだ。
この賭けの大きさ
Google Cloud Next の過去数回の基調講演では常に「AI」が取り上げられてきたが、今回は明らかに異なっていた。
- 名称変更 — ツール型プラットフォーム(Vertex AI)からアプリケーションプラットフォーム(Agent Platform)へ
- チップ分割 — トレーニングと推論の分離は、製品ライン単位の賭け
- データセンター再設計 — Virgo はアーキテクチャの根本からの見直し
- 販売軸の変更 — 「AI 機能」の販売から「エージェントライフサイクル管理」の販売へ
この背景にある判断は次の通りだ。将来、クラウド上の主要なワークロードは、人間が書いたコードではなく、エージェントが実行するタスクになる。この判断が正しければ、すべてのクラウドベンダーの製品はエージェントを中心に再設計する必要がある。間違っていれば、Google は少なくとも 2 年分の研究開発予算を誤った方向に賭けたことになる。
AWS はまだ動いていない(re:Invent は年末)、Azure は先月 Microsoft Fabric MCP で動きを見せた。しかし、今回の Google の強みは、ハードウェア、ネットワーク、プラットフォーム、ビジネスモデルを一度に再構築した点にある。
クラウド業界に詳しい者なら誰でも知っている。チップの世代とデータセンターアーキテクチャを間違えると、軌道修正に最低 3 年はかかる。Google がここまで大胆に賭けられるのは、自社のエージェントロードマップに確かな自信があるからだ。
参考元:Google Cloud Next '26: Gemini Enterprise Agent Platform Leads AI-Centric News(Virtualization Review);Google Cloud Next made it clear: AI is coming for everything(The Register);CocoLoop、Google Cloud Next 2026: News and updates(Google 公式ブログ)