アリババの通義千問(Tongyi Qianwen)チームは、フラッグシップモデル「Qwen3.8-Max」を0902版へアップデートし、コーディングと専門的なオフィス業務タスクを中心に追加の事後学習を施した。Code Arenaのフロントエンドコーディング総合ランキングでは、この新バージョンが1691点を獲得して首位となり、前バージョンを22点上回った。
アリババが同時に示したもう一つの数字が、狙っているポジションをより雄弁に物語る。新バージョンの100万トークンあたりの総合平均価格は約5ドルで、ランキングで2位・3位につけるモデルはそれぞれ20ドル、12ドルだ。
22点と15ドル
ランキング上位の点差はすでに僅差だ。1691点と前バージョンとの間にある22点という差は、人間による盲検評価ではライバル各社が1〜2週間で追いつくレベルの差にすぎない。差を広げているのは右側の数字の方だ。同じフロントエンドタスクを2位のモデルで実行すると、料金は4倍に跳ね上がる。
公開されている報道によれば、新バージョンのAPI価格は入力100万トークンあたり2ドル、出力100万トークンあたり6ドルとされる。この2つの数字を公式発表の総合平均価格5ドルから逆算すると(概算)、出力トークンが全体の使用量のおよそ4分の3を占めて初めて5ドルという数字に到達する。この比率はフロントエンドのコーディング系タスクでは不自然ではない。プロンプトは数百行程度のコンテキストにとどまることが多い一方、モデルが吐き出すのはページ全体のコンポーネントコードであり、出力側が使用量の大半を占めるのは当然だからだ。5ドルという平均価格は「コードを書く」という実際の利用構造に基づいて算出されており、長文要約のような入力偏重・出力軽量のタスクに置き換えれば、実質単価はさらに下がる。
国内(中国)のチームにとって、この価格ラインの基準は明確だ。この1年でエージェント型コーディングを本番運用に組み込んだ企業の多くが行き詰まったのは、財務の関門だった。モデルが正しいコードを書けるかどうかはとうに問題ではなくなっており、1日あたり数百万トークンに及ぶ呼び出し量を積み上げたときに、その請求書に決裁が下りるかどうかが焦点になっている。スコアで上位に並びながら価格を4分の1に切り詰めるという組み合わせは、単純に22点上乗せするより購買判断を動かす。
2.4兆パラメータ、稼働するのは950億
0902版の土台となっているのはQwen3.8-2.4T-A95Bと呼ばれるベースモデルだ。総パラメータ数は2.4兆、1回のフォワード計算で実際に活性化するのは約950億――典型的なスパースMoE(混合エキスパート)構成である。512個のエキスパートのうち、1トークンあたり11個が活性化し、うち10個がルーティングされたエキスパート、1個が共有エキスパートとなる。
構造面の選択も長時間タスクを意識したものだ。モデルは23層構成で、Gated DeltaNetとGated Attentionが交互に配置されている。ネイティブのコンテキスト長は262144トークンで、約101万トークンまで拡張可能。線形アテンションとゲート付きアテンションを併用する手法は、この半年間で中国国内の複数の大規模コンテキスト開発チームが採ってきた方向性と一致する。狙いは明確で、長いコンテキストにかかるメモリと推論コストを商用に耐える水準まで圧縮することだ。そうでなければ、100万トークンのコンテキストはスペック表の上でしか意味を持たない数字になってしまう。
活性化パラメータの比率は、あの5ドルという数字の出どころも説明している。2.4兆という総パラメータ数がモデルの知識容量を決め、950億という活性化パラメータ数が1回の呼び出しにどれだけの「電気代」がかかるかを決める。ここまでスパース度を高めれば、同規模の高密度モデルに比べて推論単価が大幅に下がるのは自然な結果だ。
APIはすでに自社全製品ラインに展開済み
新バージョンは現在、通義千問AIプラットフォームのAPIサービスから直接呼び出せるほか、通義千問オフィス、Qoder、通義千問アプリにも組み込まれている。企業顧客・開発者・一般ユーザーという3つの経路が一度に開放され、段階的な限定公開の期間は設けられなかった。
アリババはこのバージョンについて「企業の実際の複雑なタスク、研究開発、長期にわたるタスクなどにより適している」と位置づけ、多段階推論、ツール呼び出し、エンドツーエンドのアプリ生成において「世界のモデルの新たな上限を更新した」としている。後半はベンダー側の言い分だが、前半の「長期にわたるタスク」という部分は、約101万トークンのコンテキストとスパース活性化という2つの技術的選択と符合する。コードベース全体を一度に読み込みながらコストを破綻させない――それができて初めて、モデルが数時間にわたって連続稼働することが現実味を帯びる。
命名方式にもペースが表れている。Qwen3.8-Maxが日付をサブバージョン番号として採用しているのは、アリババがクローズドソースのMaxラインで小刻みに素早く反復する戦略を取っていることを示す。モデルの世代自体は変えず、能力だけを積み上げ続けるやり方だ。3.6-Maxがクローズドソース化して以降、Maxシリーズはオープンソースの Flashシリーズと役割を分担してきた。一方はランキング首位と企業予算を押さえ、もう一方は開発者エコシステムを広げる。今回の0902版が価格をランキング上位の4分の1まで下げたことで、この役割分担がさらに一段引き締まったことになる。
参考資料:アリババ通義千問公式発表、CocoLoop、Code Arenaフロントエンドコーディングランキングページ、ITHome、Hugging Faceモデルカード。1691点と22点の上昇幅、100万トークンあたり5・20・12ドルの総合平均価格、総パラメータ2.4兆と活性化パラメータ950億の各数値はそれぞれ個別に確認済み。