ServiceNow、助言型AIから実行するAIへ

「助言するだけのAIは行き着くところまで来た。企業が求めているのは、状況を把握し、判断し、安全に行動できるAIだ」。ServiceNowの最高製品責任者Amit Zavery氏は、ラスベガスで開かれたKnowledge 2026で、従業員の横で提案するだけのAIアシスタントは主役ではなくなったと強調した。

ServiceNowの論理は明快だ。AIが業務プロセス全体を完了できるなら、なぜ人間がAIの提案を実行し続けなければならないのか、という問いである。

最初に示したのは実運用の数字

同社は企業顧客に向けて、社内IT specialistがケース解決を人間より99%速く処理していること、DocuSignがITチケットの90%完全自動処理を目標にしていること、米ノースカロライナ州ローリー市で従業員リクエストの98%が人手を介さず処理されていることを示した。CRMプラットフォームでは月間1億件超の顧客ケースを処理し、年間700万件の見積書を構成している。

ローリー市の例は重要だ。大企業だけが使えるSaaSではなく、地方自治体でもIT依頼の大半を自動処理できるなら、小規模な公共部門のIT人件費にも直接影響する。

AI Specialistsが担う業務

今回発表されたのは単一製品ではなく、企業内の役割を置き換えるAIの一群だ。IT運用では監視、修復、クローズまでを担い、CRMでは顧客課題を端から端まで処理する。HRは従業員リクエストと手続きを進め、財務・法務は標準化された監査やコンプライアンス確認を担当し、調達は見積もりと契約回付を扱う。セキュリティとリスク領域では資産識別とIDガバナンスを支える。

IT specialistsは2026年6月に正式提供され、セキュリティとリスク向けspecialistsは2026年9月に続く予定だ。管理層となるAI Control Towerは全製品・全パッケージに標準同梱され、従来の追加購入機能から基盤機能へ移される。

MicrosoftとNvidiaも組み込む

Microsoft Agent 365との統合により、ServiceNowのspecialistはOutlook、Word、PowerPoint内で動作できる。AI Control TowerはMicrosoft環境全体へガバナンスを広げるため、たとえばOutlookで経費精算メールを受け取った従業員が、画面を切り替えずにServiceNowの処理をAIに完了させる、といった使い方が想定される。

ServiceNow AI PlatformはNvidiaのアクセラレーテッドコンピューティング基盤にも接続し、エージェント展開と推論を高速化する。これは単にエージェントを売る話ではなく、MicrosoftとNvidiaを巻き込んだ企業AIの運用基盤を狙う動きだ。

信頼を支えるセキュリティ

見落とされがちな重要指標は、ServiceNowのセキュリティ・リスク製品ラインの年契約価値が10億ドルを超えたことだ。70カ国で展開するグローバルエネルギー企業では脅威封じ込め時間を97%短縮し、米金融機関では休眠状態の非人間IDを96%削減し、航空宇宙メーカーでは統制テスト時間を75%短縮したという。

AIエージェント導入の最大の壁は、技術そのものではなく、本番環境を触らせられるかという信頼である。ServiceNowは過去に買収したArmisとVezaをAutonomous Security & Riskに統合し、資産とIDガバナンスを一体化しようとしている。

人の再教育も必要になる

同社は、従業員がAI specialistとの協働をサンドボックスで学ぶSimStudioと、個別の学習経路を示すAI Learning Guideも発表した。ServiceNow Universityの受講者は200万人に近づき、前年比80%増となっている。

AI specialistが通常のITチケットの98%を引き受けるなら、人間に残る仕事はAIを使い、調整し、管理することに寄っていく。その人材を育てる必要があり、教育自体も事業になる。

意味するもの

ServiceNowは「手伝うAI」と「働くAI」を切り分けた。Copilot、Notion AI、Gemini for Workspaceのような過去3年の企業AIは、従業員を主体にした副操縦士だった。一方でServiceNowが賭けるのは、業務フローの実行主体をAIに移し、人間は例外処理と判断点に現れるモデルだ。

これが定着すれば、オフィスソフトというよりAIチームによる業務プロセスアウトソーシングに近い。CognizantやInfosysのようなBPO事業者の収益性の高い部分には圧力がかかる。答えは、6月のIT specialists一般提供後に顧客維持データが出てから見えてくる。

参考資料:CocoLoop、ServiceNow just unveiled an AI workforce that can run your entire company(Fortune)