検索AIエージェントIris公開 文脈管理が鍵に

AllSpark Researchが、2つの検索AIエージェントの重みをHugging Face上で公開した。名称はIris。小型のIris-miniはQwen3.6-35B-A3Bをベースに事後学習したモデルで、総パラメータ350億、推論時に活性化するのは30億。大型のIris-proはQwen3.5-397B-A17Bを基盤とし、総パラメータ3970億、活性化170億となっている。いずれもMixture-of-Experts構成で、コンテキストウィンドウは256K、重みはApache 2.0ライセンスで公開された。技術レポートは9月3日にarXivに掲載されている。

検索AIエージェントが通常の対話モデルと違う点は、何を検索するか、結果を見た後にさらに検索を続けるか、どの時点で証拠が十分とみなして打ち切るかを自分で判断しなければならないことだ。この2年間、この能力はほぼクローズドソース製品の独壇場で、オープンソース側に比較対象となるものはほとんどなかった。

4つのベンチマークでの成績

論文が示すのはBrowseComp、BrowseComp-ZH、DeepSearchQA、HLEの4つのベンチマークだ。Iris-miniのスコアは82.2、84.8、86.9、52.3。Iris-proは88.6、85.1、92.9、56.4で、DeepSearchQAはF1値で評価している。両モデルともそれぞれのパラメータ規模でオープンソースの検索AIエージェントとして最高スコアを記録した。差が最も大きいのはBrowseCompだ。

直感に反する数字が一つある。中国語のBrowseComp-ZHでは、350億パラメータの小型モデルが84.8、3970億パラメータの大型モデルが85.1と、差はわずか0.3点。同じ組み合わせのモデルが英語のBrowseCompでは6.4点の差をつけている。中国語のベンチマークでは、パラメータを増やしてもほとんど見返りがなかったことになる。

論文にあるもう一つの対照実験のほうが、要点をより直接的に示している。チームは推論時のコンテキスト管理戦略を3パターン比較した。何もしない場合、コンテキストが閾値を超えたら蓄積したツール呼び出し履歴を全て破棄して元の質問からやり直す「discard-all」、そして除外済みの手がかりを要約してから続行する「retry」だ。コンテキスト管理を有効にすると両モデルともスコアが上がったが、その上げ幅はIris-proよりIris-miniのほうが大きかった。つまり小型モデルにとっては、際限なく伸びていく検索履歴をどう管理するかのほうが、パラメータを積み増すことより効いてくる。

学習データはハイパーリンクから逆算して作る

マルチホップ型の検索問題は作るのが最も難しい。3、4ページをまたがないと答えられない問題を人手で書くのはコストが高すぎるうえ、モデルに文字列マッチングで抜け道を突かれやすい。問題文中の固有名詞がたまたまあるページと一致すれば、モデルは一度検索するだけで答えのページに直行できてしまう。

Irisのアプローチは逆で、まずウェブコーパスのハイパーリンク構造から種となるページを1つ選び、そこからの発リンクをたどってエンティティグラフを抽出し、そのグラフの上でマルチホップの連鎖を組み立て、最後に問題文を書き換えて、どの手がかりも文字列の一致だけでは解けないようにしている。

学習自体は論文が「SFT-RL climbing」と呼ぶプロセスで、教師あり微調整と強化学習を交互に行う。強化学習の段階はオフラインのスナップショットではなく実際の検索に対して実行され、採点に使う報酬モデルと観測結果を要約するモジュールはいずれも学習クラスタ内部に配置されている。この構成では学習の各ステップで実際にネットワークリクエストを発行する必要があり、エンジニアリングコストは小さくない。

Our policy is optimized by RL against live search.

オープンソース側にようやく手強い対抗馬が出た

全体を見渡すと、一般的な対話やコーディングではオープンソースモデルがクローズドソースにほぼ追いついた一方、検索は最も遅れている分野だった。理由は分かりやすい。検索AIエージェントの能力はモデル自体と、それを取り巻くツールのスケジューリング用フレームワークの両方で決まるが、クローズドソース製品は両方をまとめて調整できるのに対し、オープンソース側はモデルだけを公開してフレームワークは出さないケースが多かった。

今回Irisは、モデルの重み、コンテキスト管理の戦略、データ構築の手法をまとめて公開した。学習パイプラインのコードは「近日公開」とされている。GitHubリポジトリの謝辞にはMiroThinker、Relax、ms-swift、slimeの名前が挙がっており、このうち最初の2つはこの1年で検索AIエージェントに取り組んだオープンソースの先行事例だ。

レポートは同じBrowseCompの表の中で、IrisをGPT-5.5 ProやGemini 3.1 Proといったクローズドソースモデルとも比較しているが、論文本文が「同規模でトップ」と主張しているのはオープンソースの範囲に限られており、クローズドソース勢の個別スコアはまとめの中で詳しく展開されていない。もう一つ公開されていないのが、AllSpark Researchというチームの所属機関だ。報道では中国のコンテンツプラットフォームとの関連が指摘されているが、arXivのページにもGitHubリポジトリにも所属機関は明記されておらず、9人いる著者の個人ページにも記載はない。

自分でディープサーチの仕組みを動かしてみたい人にとって、総パラメータ350億・活性化30億という規模は手頃なサイズであり、論文にあるコンテキスト管理の手法と組み合わせれば単機でも起動できる。Apache 2.0ライセンスの範囲も、商用利用に十分な余地を残している。

参考資料:arXiv論文2609.04304、AllSpark-Research/Irisリポジトリ、CocoLoop、Hugging Faceモデルページ。4つのベンチマークのスコアと2モデルのパラメータ数は論文の表に基づく。