8月27日、Googleは動画生成モデル「Gemini Omni 1.1 Flash」を開発者向けに提供開始した。同日Google AI Studioで公開され、Gemini Enterprise向けAgentプラットフォームAPIにも同時対応、Google FlowとGeminiアプリではPlus・Pro・Ultra加入者向けに順次利用可能になった。Googleは公式ブログでこのバージョンについて次のように位置づけている。
"Omni 1.1 is production-ready for professional use via the Gemini API."
(Omni 1.1は、Gemini API経由でプロフェッショナル用途の本番投入に耐える水準に達した)
続き撮りの参照窓が1秒から10秒に拡大
最も実質的な変更は、シーンの連続性に関する部分だ。6月末版は動画をつなぐ際、直前1秒分しか参照しなかった。モデルが得られる情報は静止画1枚とほぼ同等で、カメラがどの方向へパンしているのか、キャラクターの手の動きがどこまで進んでいるのか判断のしようがなかった。その結果、続きの映像はしばしば「セットが変わった」ように見えてしまう——シーンをまたいだキャラクターの一貫性を保てないことは、Google自身が前バージョンの説明資料で認めていた。
1.1では、この参照窓が直前10秒に拡大された。つなぎ自体は引き続き10秒単位で進むが、累積の長さは最大40秒まで積み上げられるようになった。あわせて追加されたのが、最初と最後のフレームを指定できる機能だ。トランジションは「生成してから選ぶ」方式から「両端を先に固定し、間をモデルに補わせる」方式に変わった。絵コンテを作る人間にはおなじみのロジックで、キーフレームさえ固定できれば、間の動きにも初めて補間の根拠が生まれる。
ドラフトモード、4Kアップスケール、3秒の動画リファレンス
残りの変更はいずれもワークフロー寄りだ。新設された360pのドラフトモードは720pに比べ最大60%高速に出力でき、構図を素早く絞り込むのに使える。カットが決まった後は4Kへのアップスケールが可能だ。マルチモーダル入力側では動画リファレンスが新たに加わり、1本あたり最大3秒まで投入できるようになった。これまではテキストと画像しか受け付けなかった。最終出力は1080pと4Kの2段階になる。
動画リファレンスが変えるのは入力側の表現方法だ。以前、特定のカメラワークをモデルに学ばせたければ「左へゆっくり横移動、軽いハンドヘルドの揺れ」といったテキスト記述に頼るしかなく、モデルがどこまで意図をくみ取るかは運任せだった。今は3秒のサンプル映像をそのまま投入できる。3秒あれば1カット丸ごとは収まらないが、ワンカット分のカメラワークや1回分の動作ループを丸ごと収めるには十分で、統一した映像言語が求められるシリーズものにとっては、プロンプトを10行書くよりずっと手間が省ける。360pのドラフトモードとはセットで機能する仕組みで、まず低解像度でリズムや構図、カメラの動きといった構造的な要素を固め、その後高解像度に切り替えてディテールを詰める。毎回フル解像度の料金を払う必要はない。
40秒の動画1本にいくらかかるのか
今回Googleは解像度別の秒単価を個別には示さず、料金ドキュメントに換算の基準だけを残した。動画出力はトークン課金で、720pは1秒あたり5792トークンに相当し、標準ティアの動画出力は100万トークンあたり17.50ドル。逆算すると1秒あたりおよそ0.10ドルになる。この数字は6月末版と変わっておらず、2カ月間据え置かれたままだ。
720p換算でざっくり計算すると、40秒のひとつながりの映像はおよそ4ドル。ドラフトモード分は別勘定で、まず360pで10案の構図を3案に絞り込み、残った3案を720pか1080pで本番出力すれば、同じ予算でさらに2ラウンド分のカメラワーク試作ができる計算になる。1080pと4Kの実際の単価はGoogleが公開していない。トークン課金のルールから推測すると、解像度が上がるほど単位時間あたりのトークン数は増え、単価も上がるはずだが、具体的な倍率はドキュメントの追記待ちだ。
尺の上限は少しずつ後ろへ押し出されている
Omniという製品ラインを通して見ると、ペースはかなり明快だ。6月末のプレビュー版は1カットの上限が10秒、1秒0.1ドルという制約がはっきり示されていた。2カ月後の今、1カットの長さ自体は変わっていないが、そこからさらに3回つなげられるようになり、合計の尺は4倍、コンテキストウィンドウは10倍に広がった。Googleが選んでいるのは分割してつなぐ方式であり、1回の生成そのものを長くするのではなく、各セグメントが次のセグメントに正確に受け継がれることで合計の尺を積み上げていく。この方式はVRAMや推論コストには優しいが、その代償として継ぎ目の安定性はコンテキストウィンドウで力業を支えるしかない。参照窓を1秒から10秒に広げたのは、まさにこの穴を埋めるための一手だ。
40秒では完結した広告動画は作れないが、SNS上で主流の10〜20秒のショート動画であれば、1カットで足り、2カットあれば編集の余地も生まれる。Googleがブログに「プロフェッショナル用途の本番投入に耐える」と書き込んだのは、まさにこの「本数は多いが1本あたりの価値は高くなく、それでも一貫性は最低限求められる」仕事に賭けているからだろう。
参考資料:Google Developer Blog、Google DeepMind、CocoLoop、Gemini API料金ドキュメント。秒単価の換算根拠は720pで1秒5792トークン、標準ティアの動画出力が100万トークンあたり17.50ドルという数値で検証した。